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学長だより

 学長メッセージ
学長
有本 章

 2011年4月1日付けで学長に就任しましたのを機会に、微力ながら本学の発展に全力を尽くす所存でありますので、ご支援・ご鞭撻のほど何卒よろしくお願い申し上げます。

 さて、2011年3月11日に突発した東日本大震災は、地震・津波・原発事故が複合した未曽有の悲劇となって、「戦後」に匹敵するような国難をもたらしました。世界中から多数の追悼や激励の温かく思いやりのある言葉が寄せられ、支援や連帯の輪が広がるにつけ、日本がまさしく存亡の危機に直面している事実を日増しにひしひしと認識せざるを得ません。深刻の度を増す現状は、震災後の時期が「戦後」と対比した「災後」と呼称する時代へと確実に突入したことを物語ると言わざるを得ません。この国難を克服するには、政治、経済、社会、文化、教育などの各界を挙げての取組みが求められるのは必至であります。被災地の復旧・復興と日本再建が課題となる今後は、戦後の復興が数十年を要したと同様、幾多の歳月を要すると危惧されるところです。

 このような「災後」の試練の時代には、当然ながら大学の役割や使命の新たな自覚を促すはずであり、大学は何かが改めて問われるに違いありません。「学問の府」たる大学とは何かを問い直す必要に迫られるのであり、その社会的存在理由たる知的創造性の発揮が重視され、大学の仕事(学事)の根幹である知識の発見、伝達、応用にかかわる持ち前の底力を発揮しなければならないはずであります。換言すれば、研究、教育、サービスの活動の「質保証」が何よりも重要性を増すはずであると言わなければならないでしょう。特に社会の復興、再建、発展には若い世代の想像力、創造力、問題解決力など顕在的かつ潜在的な活力への期待が著しく大きい以上、大学教育をいかに充実するかは不可欠の課題となります。いかにして優れた人材を輩出し、立派な人間を養成するかは社会の復興、再建、発展の命運を左右すると言っても過言ではないでしょう。新しい国づくりの根本は人づくりであり、教育にほかなりませんから、その観点に立脚して大学の理念と使命を明確に措定し、確固たる信念を標榜することが欠かせない課題であります。

 大学とは何かを問うには、中世大学が誕生して以来の800年の歴史を紐解かなければならないことになります。中世大学では古代ギリシャ時代の「自由七科」に淵源する人間教育の精神を学芸学部に継承し、さらに新たな専門教育を法学、医学、神学の各専門分野に創設した事実がありますが、そこではもっぱら教育機能が発達しました。これに加えて、近代大学では、研究、サービス、管理運営などの機能が発達して今日に至った経緯があります。こうして発展した研究、教育、サービス、管理運営などの大学の諸機能の中で古くて新しい教育機能に注目すれば、大学史に深く刻印されているごとく、人間教育の理念を十分に実現することが肝要でありますし、立派な人間あるいは人間性の涵養をめざして知徳体の調和的発達の模索が重要であることが分かります。大学は伝統的に真善美の価値の追求に加え、文法学、論理学、修辞学、算術、幾何学、天文学、音楽から構成される自由七科によって、あるべき人間像を追求してきました。その延長線上で考える時、かつてペスタロッチーが教育の理念を「完全陶冶」と指摘したことを想起するならば、頭・心臓・手が調和的に発達して、知力・徳力・体力・技術力がいかんなく発揮されるべきとの提唱は現在にも十分通用するでしょう。

 このような大学の理念や使命に照らせば、本学の建学の精神や使命もまた人間教育に焦点を合わせて人間性を追求する点に通底しており、その意味で世界に通用する普遍性がみられると解されます。本学の建学の精神は、大乗仏教を基本にして、菩薩道の精神を「念願は人格を決定す 継続は力なり」の学是によって具現せんとするところに標榜されているからであります。大学の理念と本学の理念がそれぞれ模索してきた人間教育を比較すると、パイデイア=paideiaと菩薩道には根本的には「善さ」を追求する点で共通した精神が見出されるのであります。大学の理念が今日のリベラルアーツ教育(教養教育)に連綿と継承され、専門教育との調和を図るように、本学の人間教育を追求する理念が、個々の専門分野における専門教育を通してその深化を図る努力を持続していることも、彼我の共通性が見出されると言ってよいでしょう。

 特に、自由七科の一つである音楽は、ギリシャ時代の昔から人間教育の必修科目の一翼を担ってきたのでありますが、その意味からしても本学では、音楽学部、大学院音楽研究科、作陽音楽短期大学において旧来の伝統的なディシプリン(専門分野)として音楽を継承し、音楽に精通したスペシャリストを養成するという重要な役割を果たしております。そこには西洋的伝統と東洋的伝統が出会い、大学の理念と本学の理念の融合がみられるのであります。食文化学部は上記の知徳体に即して言えば、知徳と協調する体力・技術力の基盤を醸成するものであり、21世紀では一段と重要性が高まる領域でありますが、その専門分野を通して立派な人間性を涵養する点に特色があります。子ども教育学部は、教員や教育畑で活躍するスペシャリストを養成する専門分野であり、そもそもpaideiaが子どもの「善さ」を導き追求することに本質があることからすれば、その師範たる教員が人間性豊かな人材に育成されることは不可欠であるし、本学ではそのような質保証を模索する点に主眼をおいております。

 以上、縷々述べましたが、冒頭に記しましたように、これからの日本は国際社会と連帯を深めながら、相応の貢献を果たす必要がありますが、そのためには何はさておき深刻な現状を克服するという課題に取組まなければなりません。現在の難局を打開するために各界での取組みが欠かせませんし、とりわけ大学の役割や使命の見直しは重要であります。本学では、日本再建に向けて全力を遂行する時代に突入したことを教職員一同と学生諸君が共に自覚して、協力して、一歩一歩着実に取組みを開始することが必須の課題であると考えられます。そして、長い大学の歴史を通じて、先人達が模索してきた大学の理念と本学の建学の精神とが人間教育という「善さ」の追求において融合していることを再発見するとともに、確たる信念を持って豊かな人間教育の実現に向かって邁進したいと思料する次第であります。

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